最高裁判所第一小法廷 昭和41年(オ)1231号 判決 1967年6月29日
上告人 末松清郎
右訴訟代理人弁護士 稲沢智多夫
上告人 尾上菊子
右訴訟代理人弁護士 清水正雄
被上告人 森山茂樹
右訴訟代理人弁護士 猿渡脩蔵
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理由
上告代理人稲沢智多夫の上告理由について。
民法九四条二項所定の善意の第三者であることは、同条項の保護を受けようとする当事者において主張、立証しなければならないものと解するのが相当であって(昭和三五年二月二日第三小法廷判決、民集一四巻一号三六頁。昭和四一年一二月二二日第一小法廷判決参照)、これと同趣旨に出た原審の判断は正当である。また、右条項にいわゆる第三者とは、虚偽の意思表示の当事者またはその一般承継人以外の者であって、その表示の目的につき法律上利害関係を有するに至った者をいうと解すべきところ、上告人尾上がかかる第三者に該当するとはいえない旨の原審の判断も、その挙示する証拠関係に照らし、正当として是認することができる。
原判決に所論の違法はなく、論旨は、独自の見解に立って原判決を非難し、または、適法になされた原審の証拠の取捨判断、事実の認定を非難するに帰し、採ることができない。
上告代理人清水正雄の上告理由第一点について。
本件記録を検討しても、原審において所論民法一〇九条、一一〇条に関する主張がなされているものと認めることはできない。また、代理権の授与に関する所論摘示の原審の判断は、その挙示する証拠に徴し、正当として是認することができる。
原判決に所論の違法はなく、諭旨は、原審において主張、立証のない事実を主張して原判決を非難し、または、独自の見解に立って適法になされた原審の証拠の取捨判断、事実の認定を非難するに帰し、採ることができない。
同第二点について。
上告人尾上が民法九四条二項にいわゆる第三者に当たらないとした原審の判断が正当であることは、上告代理人稲沢智多夫の上告理由について説示したとおりであって、原判決に所論の違法は認められない。論旨は、独自の見解に立って適法になされた原審の証拠の取捨判断、事実の認定を非難するに帰し、採ることができない。
よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大隅健一郎 裁判官 入江俊郎 長部謹吾 松田二郎 岩田誠)
上告代理人稲沢智多夫の上告理由
一、原判決には法律の解釈を誤った違法がある。
原判決書三枚目表の「理由」中後から二行目以下の判断によると「善意の第三者」であることはこれを主張する者即ち本件においては上告人尾上が主張立証しなければならぬとしているが、右は誤りである。
(一)先ず「善意」は推定されるものであるから無効を主張する被上告人において「悪意」の立証をすべきものである。このことは条文の趣旨解釈上当然である。
(二)次に本件で「第三者」に該当しないと判断しているけれども右「第三者」の意味については通常「意思表示の目的につき利害関係を有する者」とされている。
ところで原判決は上告人尾上は右第三者に該当するとはいえないと認定しているけれども、これは余りにも証拠の採否を恣意になされていると云わねばならない。原審には証拠の採否を誤った違法がある。上告人尾上は「第三者」に該当するから原判決は破棄さるべきである。
上告代理人清水正雄の上告理由<省略>